1970年代は、アイドル歌謡以外にも、歌謡曲、フォークソング、ニューミュージックなどといった多様なジャンルから有望な若い女性歌手が次々と誕生しました。
山本潤子:1970年6月10日デビュー ※『赤い鳥』として
研ナオコ:1971年4月1日デビュー
欧陽菲菲:1971年9月5日デビュー
荒井由実(松任谷由実):1972年7月5日デビュー
五輪真弓:1972年10月21日デビュー
高橋まり(高橋真梨子):1973年3月10日デビュー ※『ペドロ&カプリシャス』として
小坂明子:1973年12月21日デビュー
麻生よう子:1974年2月21日デビュー
テレサ・テン:1974年3月1日 ※日本デビュー
大橋純子:1974年6月5日デビュー
八神純子:1974年12月10日デビュー
大貫妙子:1975年4月25日デビュー ※『シュガー・ベイブ』として
中島みゆき:1975年9月25日デビュー
山崎ハコ:1975年10月1日デビュー
森田童子:1975年10月21日デビュー
内藤やす子:1975年11月1日デビュー
尾崎亜美:1976年3月20日デビュー
庄野真代:1976年5月1日デビュー
矢野顕子:1976年7月25日デビュー
中原理恵:1977年9月21日 デビュー
渡辺真知子:1977年11月1日デビュー
杏里:1978年11月5日デビュー
竹内まりあ:1978年11月25日デビュー
桑江知子:1979年1月25日 デビュー
石川優子:1979年3月25日デビュー
シルヴィア:1979年9月21日デビュー ※『ロス・インディオス&シルヴィア』として
久保田早紀:1979年10月1日デビュー
松原みき:1979年11月5日デビュー
などなど、1970年代の(アイドル以外の)女性歌手は数々のヒット曲を生み出し、その後の日本歌謡界に大きなインパクトを与えた人も多数存在しています。(この他に演歌歌手もいるがここでは言及しない)
しかし松田聖子がデビューした1980年以降、アイドルブームがより一層高まったことで、極一部の人を除きアイドル歌謡以外の分野で活躍する新人女性歌手が駆逐されてしまいます。
以下で示す1971年から1989年までのレコード大賞新人賞(最優秀賞ノミネート)の一覧をご覧ください。(1971年はアイドル歌謡元年と呼べる年)
※赤字はアイドル歌手、黒字はその他歌手、太字は最優秀新人賞
1971年:小柳ルミ子、南沙織、欧陽菲菲、シモンズ、本郷直樹
1972年:麻丘めぐみ、森昌子、郷ひろみ、青い三角定規、三善英史
1973年:桜田淳子、アグネス・チャン、浅田美代子、安西マリア、あべ静江
1974年:浅野ゆう子、荒川務、城みちる、麻生よう子、テレサ・テン、西川峰子
1975年:岩崎宏美、太田裕美、片平なぎさ、細川たかし、小川順子
1976年:ピンク・レディー、内藤やす子、芦川よしみ、角川博、新沼謙治
1977年:榊原郁恵、高田みづえ、太川陽介、清水健太郎、狩人
1978年:石野真子、渋谷哲平、渡辺真知子、さとう宗幸、中原理恵、世良公則&ツイスト(辞退)
1979年:井上望、倉田まり子、桑江知子、竹内まりや、松原のぶえ
1980年:田原俊彦、岩崎良美、河合奈保子、松田聖子、松村和子
1981年:近藤真彦、沖田浩之、竹本孝之、祐子と弥生、山川豊
1982年:シブがき隊、石川秀美、早見優、堀ちえみ、松本伊代
1983年:THE GOOD-BYE、岩井小百合、大沢逸美、桑田靖子、小野さとる
1984年:岡田有希子、菊池桃子、一世風靡セピア、吉川晃司、SALLY
1985年:中山美穂、本田美奈子、松本典子、芳本美代子、小林明子
1986年:少年隊、石井明美、西村知美、真璃子、水谷麻里
1987年:立花理佐、酒井法子、畠田理恵、BaBe、坂本冬美
1988年:男闘呼組、相川恵里、仲村知夏、香西かおり、大和さくら、BUCK-TICK
1989年:川越美和、田村英里子、マルシア、尾鷲義人、香田晋
特に1980年から1987年はアイドルでほぼ独占状態となるのです。
1980年代は演歌歌手やバンドの一員でもない限り、若くて平均以上の外見力があれば、とりあえずアイドルとしてデビューさせられる時代でした。
あの尾崎豊ですらアイドルとして売り出そうとされていたというエピソードもありますし、現実にガールズバンドとして募集されたプリンセスプリンセスがアイドル的な売り出し方をされたほどです。
オーディションの合格
1980年代は、歌手を目指すためのオーディションがアイドル系のものばかりになっていて、本格的な歌手を目指す道が狭くなっていました。
本格的な歌手である渡辺美里が、『ミス・セブンティーンコンテスト』というアイドル特性の高いオーディション出身者であることは、ファンの中では有名な話となっています。
歌唱力の高さ
本格的歌手のハードルが高くなっていた1980年代は、芸能界に入れたとしても相当の歌唱力なければ歌手として扱われず、漏れなくアイドルとしてデビューさせられました。
事務所から誘惑
当時に芸能事務所は、新人なら猫も杓子もお金を儲けやすいアイドルとして売りだそうとした時代です。
その事務所からの方針を断って本格的な歌手の道に進むのは、芸能界に入ったばかりの新人にとってはかなり難しいことであり、相当の意志の強さがないと事務所に押し切られてしまうことでしょう。
メディアの扱い
いくら事務所の人間を説得して本格的な歌手としての道を進んでも、メディアの扱いがアイドル的であれば世間での扱いもアイドルになってしまいます。
1980年代は、こういった様々な壁を乗り越えなければ本格的な歌手になれない時代だったわけです。
ということで、そんな1980年代に本格的な歌手としてデビューしヒット曲を生んだ女性を紹介します。(演歌歌手は除く)
EPO
生年月日:1960年5月12日
レコードデビュー:1980年3月21日(DOWN TOWN)
【代表曲】
80年:DOWN TOWN(圏外)
83年:う、ふ、ふ、ふ、(7位)
【アイドルとして扱われなかった理由】
デビュー当初から自身で作詞するなどシンガーソングライターの側面が強かったため。
山下久美子
生年月日:1959年1月26日
レコードデビュー:1980年6月25日(バスルームから愛をこめて)
【代表曲】
82年:赤道小町ドキッ(2位)
【アイドルとして扱われなかった理由】
元々ミュージシャン思考の高いプロジェクトの一員としてデビューしているため。
また、デビュー時の年齢が21歳とアイドルとしては高齢なため。
麻倉未稀
生年月日:1960年7月27日
レコードデビュー:1981年8月21日(ミスティ・トワイライト)
【代表曲】
83年:What a feeling~フラッシュダンス(49位)
83年:黄昏ダンシング(12位)
84年:ヒーロー HOLDING OUT FOR A HERO(19位)
85年:RUNAWAY(23位)
【アイドルとして扱われなかった理由】
デビュー時の年齢が21歳とアイドルとしては高齢なため。
シュガー
メンバー生年月日:ミキ(1960年7月15日)、クミ(1960年7月15日)、モーリ(1960年9月29日)
レコードデビュー:1981年11月21日(ウエディング・ベル)
【代表曲】
81年:ウエディング・ベル(2位)
【アイドルとして扱われなかった理由】
楽器を弾きながら歌うコーラスグループであったため。
中原めいこ
生年月日:1959年5月8日
レコードデビュー:1982年4月21日(今夜だけDANCE・DANCE・DANCE)
【代表曲】
84年:君たちキウイ・パパイア・マンゴーだね。(8位)
【アイドルとして扱われなかった理由】
デビュー時の年齢が22歳とアイドルとしては高齢なため。
あみん
メンバー生年月日:岡村孝子(1962年1月29日)、加藤晴子(1963年1月2日)
レコードデビュー:1982年7月21日(待つわ)
【代表曲】
82年:待つわ(1位)
【アイドルとして扱われなかった理由】
『ヤマハポピュラーソングコンテスト』という音楽性の高いコンテストの優勝者であることと、自身(主に岡村孝子による)で作詞作曲しているため。
ちなみに代表曲の『待つわ』は、1980年代に女性歌手が歌った演歌以外の曲でもっとも売れたシングル。(109万枚)
岡村孝子
生年月日:1962年1月29日
ソロデビュー:1985年10月19日(風は海から)
【代表曲】
87年:夢をあきらめないで(50位)
【アイドルとして扱われなかった理由】
上記同様。
中村あゆみ
生年月日:1966年6月28日
レコードデビュー:1984年9月5日(Midnight Kids)
【代表曲】
85年:翼の折れたエンジェル(4位)
86年:ちょっとやそっとじゃCAN’T GET LOVE(2位)
【アイドルとして扱われなかった理由】
声がしゃがれすぎ。
渡辺美里
生年月日:1966年7月12日
レコードデビュー:1985年5月2日(I’m Free)
【代表曲】
86年:My Revolution(1位)
86年:BELIEVE(2位)
87年:悲しいね(2位)
88年:恋したっていいじゃない(2位)
88年:センチメンタル カンガルー(9位)
88年:10 years(4位)※君の弱さと両A面
89年:虹をみたかい(1位)
90年:サマータイム ブルース(2位)
91年:卒業(2位)
91年:夏が来た!(8位)
93年:いつか きっと(7位)
【アイドルとして扱われなかった理由】
デビュー当初から自身で作詞するなどシンガーソングライターの側面が強かったため。
小林明子
生年月日:1958年11月5日
レコードデビュー:1985年8月31日(恋におちて -Fall in love-)
【代表曲】
85年:恋におちて -Fall in love-(1位)
【アイドルとして扱われなかった理由】
デビュー時の年齢が26歳とアイドルとして扱うことに無理があったため。
小比類巻かほる
生年月日:1967年3月16日
レコードデビュー:1985年10月21日(Never Say Good-Bye)
【代表曲】
87年:Hold On Me(9位)
87年:City Hunter〜愛よ消えないで〜(8位)
【アイドルとして扱われなかった理由】
元々レコーディングスタジでアルバイトしていた関係で、アイドル系ではない音楽関係者の目に止まりロック歌手としてデビューしたため。
浜田麻里
生年月日:1962年7月18日
レコードデビュー:1983年4月21日(Lunatic Doll〜暗殺警告)※アルバム
【代表曲】
89年:Return to Myself 〜しない、しない、ナツ。(1位)
【アイドルとして扱われなかった理由】
『麻里ちゃんは、ヘビーメタル。』というキャッチコピーから分かる通り、ロック思考が極めた高いため。
またデビュー時の年齢が20歳とアイドルとしては高齢なため。
石井明美
生年月日:1965年8月26日
レコードデビュー:CHA-CHA-CHA(1986年8月14日)
【代表曲】
86年:CHA-CHA-CHA(1位)
【アイドルとして扱われなかった理由】
デビュー時の年齢が20歳とアイドルとしては高齢なため。
永井真理子
生年月日:1966年12月4日
レコードデビュー:1987年7月22日(oh, ムーンライト)
【代表曲】
89年:ミラクル・ガール(9位)
90年:ZUTTO(2位)
【アイドルとして扱われなかった理由】
デビュー時の年齢が20歳とアイドルとしては高齢なため。
森川由加里
生年月日:1963年4月12日
レコードデビュー:1987年7月22日(雨のカルメン)
【代表曲】
87年:SHOW ME(1位)
【アイドルとして扱われなかった理由】
デビュー時の年齢が24歳とアイドルとしてはかなり高齢なため。
谷村有美
生年月日:1965年10月17日
レコードデビュー:1987年11月21日(Not For Sale)
【アイドルとして扱われなかった理由】
音楽会社(CBSソニー)主催のオーディション(第2回ティーンズ・ポップ・コンテスト)で優勝するなど、元々音楽色の強い人物だったため。(デビュー曲も自身の作詞作曲)
またデビュー時の年齢が22歳とアイドルとしては高齢なため。
川村カオリ
生年月日:1971年1月23日
レコードデビュー:1988年11月2日(ZOO)
【代表曲】
89年:ZOO(?位)
90年:神様が降りて来る夜(13位)
91年:翼をください(5位)
【アイドルとして扱われなかった理由】
デビュー時期が既にアイドルの衰退期に入っているため。
上記した女性歌手の多くに共通している点は、デビュー時の年齢が20歳を超えているということです。
当時は(今も?)、“アイドルはどんなに遅くても10代まで(出来れば高校生まで)にデビューするもの”という感覚があったため、20歳を超えてからデビューする場合はアイドル的な売り出し方はされないことがほとんどでした。
アイドルとしてデビューさえすれば、歌唱力があろうとなかろうと人気を得られるチャンスがあった時代ですが、何らかの理由(大学進学など)でデビューのタイミングが遅くなった人も当然いるわけで、そういった人の中から歌唱力抜群の者が本格的な歌手としてデビューをするチャンスを得たわけです。
上記した人な中でこの例(20歳以降のデビュー)に該当しないのは、あみんの加藤晴子と、中村あゆみ、渡辺美里、小比類巻かほる、川村カオリの5人だけです。
特に中村あゆみはアイドル全盛期の時代に高校3年生の年齢でデビューしているので、アイドルとしてデビューしてもおかしくはありませんでしたが、周囲の人にアイドルとして扱うべきではないと思わせるものがあったのでしょうし、私自身もそう感じるものがあります。
逆に言えば、中村あゆみぐらい尖っていないと、問答無用にアイドルとしてデビューさせられる時代であったとも言えます。
ただしこの時代がアイドル全盛であることは紛れもない事実であり、このような本格的な若手女性歌手はなかなかヒット曲が続かず、俗に言う“一発屋”の傾向が強くなっているようです。
実際に上記した女性歌手の中で、渡辺美里を除き世間に知れ渡っているヒット曲が1曲しかない人がほとんどで、1970年代にデビューした女性歌手ほどの影響力を後世に残せていません。
逆のパターンとして、1980年代は不本意にアイドルとしてデビューさせられてしまった例も多々あります。
本田美奈子は自身がアイドルと扱われることを過度に嫌い、1度ついてしまったアイドルというイメージから脱却することに相当悩んだそうです。
アニメ『さすがの猿飛』のオープニングテーマ『恋の呪文はスキトキメキトキス』を歌った伊藤さやかは、自身をアイドルとして扱われることを拒否しロックンローラーと“自称”していました。(デビュー当時の伊藤さやかはどこをどう見てもアイドルだったが)
桑田靖子などは、歌唱力が高いのに無理にアイドルとして売り出されてしまった感があり、結局ヒット曲を残すことができませんでした。
以上のように、一大アイドルブームとなった1980年代当時は、アイドルの存在が大きくなりすぎて歌手を目指す女性に様々な悩みを与えていたようです。
アンケート
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